神戸は、私が今住んでいる街である。
住み始めて10年弱くらいだろうか。
もともと親戚も知人もおらず、縁もゆかりも無いはずの街に、自らご縁を作ってしまった初めての街。
人に恋するように神戸に恋をして、本当に住んでしまった。
きっかけは、神戸市北区の有馬温泉にリゾートバイトで来たことだった。
旅館での住込み仲居のお仕事。
家賃、光熱費、自宅からの往復交通費は旅館が負担、そして昼夜食事付き。
非常に好条件、しかも貯金ができるので話に飛びついた。
リゾートバイトを選んだ理由は他にもあった。
まず、長期間かかえていた体調不良がだいぶ回復した時期だったので、何か思い切ったことをしてみたかった。
そして、自分が行きたい場所に「旅行」ではなく、一時期だけでも「住む」ということをしてみたかった。
海外へバックパッカーで放浪しに行く勇気はない、でも長期の旅はしてみたい。
あの頃のそんな自分にはピッタリな選択肢だった。
全国から集まった老若男女、色んな事情をかかえた人たちと苦楽を共にした。
契約期間を満了できず途中脱落した人もいたし、夜逃げする人も珍しくはなかった。
人間のさまざまな陰陽の感情が入り乱れ、巻き込まれ、他では味わえない経験をした。
そんな酸いも甘いもある仕事の日々。
休みの日になると、よく一人で神戸の中心街である三ノ宮へ遊びに行った。
有馬から山ひとつ越えた、海に面した華やかな街。
同じ神戸市内でも六甲山を挟んで、全く違う顔を持っていた。
名古屋生まれで喫茶店文化の恩恵をふんだんに受けていた私は、一層おしゃれ感のある神戸のカフェとスイーツにも夢中になった。
以前から憧れていたライブハウス、神戸チキンジョージにも行ってみた。
ここで初めて観たのはCharさんと石田長生さんのギターデュオ。
知らない曲ばかりだったが、そんなのはどうでもいいくらい神がかった楽しいライブだった。
チキンジョージの上階にはカフェがあり、ライブ前後によく立ち寄った。
店内の至る所にロックの香りがするお店だ。
窓の外には生田神社の入口が見える。
ある日、店内から往来を眺めていた時、何か自分の中のスイッチが入った。
この街に住みたい。
ここだ、ここにある、という感じ。
何があるのか、何が気に入ったのか、正直自分でもよく分からなかった。
一般的によく言われる神戸の魅力は分かっているつもりだ。
皆が憧れる観光地、歴史が古い、大阪と京都にも行ける、何となくおしゃれ・・・
しかし私が気に入ってしまったのは、もっと違う、肌身で感じた神戸の空気だった気がする。
つまり、理由もなく「惚れた」のだろう。
それ以来、休日は物件探しをするようになった。
偶然にも地元の学生さんから、治安のいいお勧めエリアの情報も聞けた。
そして程なくポンと、良い物件が決まったのである。
人間の人生って本腰を入れると、こうも簡単に事が運ぶものなんだなとつくづく感じた。
引越しが決まると同時にリゾートバイトは辞めた。
あれが人生最大の修業期間だったかもしれない(笑)
あれから何年も経ち、良いばかりではない神戸の色んな側面も知ることになったが、今でもこの街が好きだ。
終の棲家になるかは分からない。
今はそういうことは特に決めず、自由でいようと思う。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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